こんにちはマスダです。
新しくファッションビジネスを始める人や、ファッションブランドを立ち上げたいって方の少しでも力になれればいいなと思い、ファッションビジネスを論理的に解説するシリーズ第6回【ファッションの科学 #005 SMBの強みと大企業のジレンマ】の続きです。
ここまでに「課題」「課題の質」「タイミング」「全体像の把握」「SMBの強みと大企業のジレンマ」の話をしてきましたが、今回は「アイテムを定めて展開する」という話です。
TAM(Total Addressable Market)を検証する
自分たちのマーケットの事を考えた後は、ターゲットについて考えていきます。
この時よく使われるのが「TAM(Total Addressable Market)」というフレームワークです。
日本語では「対応可能市場」という風に訳されて、自社商品が受け入れられる市場という意味です。
「対応可能市場(TAM)」=「エンドユーザー数」×「購買金額」
誰もやっていないニッチな市場を狙う事が重要と言ってきましたが、そうは言っても対応する市場が小さくてはビジネスとしてスケールした際に上限があります。
目安としてはTAMは10億円ぐらいの市場から狙っていくのが望ましいです。
ターゲットというと、少しわかりにくいかもしれないので、「ターゲット=商品」と置き換えて考えてみましょう。
初めはTAMは狭くていい
商品の発売当初はよほどの投資をかけて前パブを打ってでもしない限り、市場シェアを獲得できても微々たるものです。
その市場の中で水平展開できると思って、TAMを広げがちで、大きな市場にする事でわずかなシェアでも大きな売上になると考える人がとても多いです。
これは本当によくある失敗例で、最初に売上を狙うのは一つのターゲット(アイテム)で十分です。
既に顕在化されている市場ではたとえ1%のシェアを取る事は非常に難しいし、リソースもかなり使います。
ましてや斜陽傾向にある国内のファッション市場ではなおさらです。
大きな市場では、それこそ競合がユニクロの様なグローバル企業だったり、国内大手アパレルとなり、その企業と真正面からぶつかっていかなくてはなりません。
そこに飛び込むということはわざわざ体力を消耗してにいくようなものなので、限定的な市場で圧倒的にシェアを取る方が、はるかにハードルが低いです。
ワンアイテムに絞ってターゲットしていくにはもうひとつ理由があります。
店舗にしろECサイトにしろ、最初にブランドに対して興味を持って訪れてくれた人はこのブランドで何を買っていいのかもわかりません。
そういった場合、結局何を買うかも決めきれずに離脱してしまい、多くは展開に対しての記憶にも残らずリピートにも繋がらりません。
そこで、例えば構成の多くをワンピースにしておくなどしておけば、一見するだけでもこのブランドはワンピースを押しているという印象が残ります。
仮にその場での購入に至らなくても、ワンピースを買いたいという購買意欲が起こった際にも連想してもらう事ができる可能性が高くなりますし、競合が少ない分コンバージョンも高まります。
このように、たとえニッチな市場に一つの商品であってもそのシェアを独占する事が出来れば、その領域の商品はあなたのブランドにとってCash Cow(金のなる木)になります。
さらにブランディングとしても、どんなワンピースがラインナップされているブランドなのか?といった様に、認知度アップの期待にもなります。
そこまで行けると、次は周辺アイテムに広げていき、TAMを少しづつ広げていくのが最も堅実で、成功確率の高いスケールの仕方です。
懸命にそしてゆっくりと、速く走ろうとすると転ぶ
前述した様な、徐々にシェアを拡大していくという戦略は過去にも事例がいくつもあります。
世界的なブランドであるエルメスだって最初は馬具、ルイヴィトンだって最初は旅行鞄と一つのアイテムからスタートしています。
そして、それぞれでシェアを獲得し、ライフスタイルの提案として様々なアイテムへと派生いったのです。
たとえ十分な投資をかけて、一時的には売上を伸ばすことができたとしても、収益化を健全化させるためにはどうしても時間がかかります。
当たり外れを見極めることにも時間を要し、黒字転換する前に燃え尽きてしまう可能性が高いでしょう。
顕在化している大きな市場を取ろうとすることは直感的な行為です。
大企業でシェア争いを経験していたことがある人であれば、大きな市場をどうやって取りに行くかと考えるのは普通ですが、小さなブランドであればこの考え方は致命的です。
他の誰も気づいていない潜在的な市場で、圧倒的なシェアを取り、競争をなるべく排除することが重要な戦略です。
短絡的な収益を上げることが目的であれば、また考え方は違ってきますが、中長期的にブランドを継続していくのであれば、焦らずに徐々にシェアを拡大していく事をお勧めします。
ちなみに最近何かと話題のZOZOTOWNだって、そういった戦略だと社長が語っていたりしました。
誰も目をつけていないところからはじめること
ここまでの話を要約すると、「市場規模が小さくても確実なシェアを狙える領域」を狙うということです。
一方でその領域は今こういう話をしている間にも参入しようと計画している人たちで溢れていると考えてもいいと思います。
そうなると、また新たな競争に巻き込まれてしまいます。
なので、本当の意味でベストは「市場は存在しないけど、多くの人がその潜在的な成長可能性に気づいていない」そんな領域を見つける事が出来れば、そのブランドが上手くいく可能性は非常に高いんではないでしょうか。
今でこそ、当たり前に使われる様になった「クラウドファンディング」「D2C」なんて言葉も、数年前は誰も使っていませんでしたし、それらの先駆者であるブランドは今でもシェアを拡大し続けています。
誰も使っていない言葉や誰も気づいていない領域だからこそ、大手企業は気にも止めなかったし、多くの人が「クレージーなアイデア」として考えていました。
言うは易しで、誰もが頭ではわかっている事かもしれませんが、まだ言語化もできていない様な未知の領域に踏み込んで、果敢にチャレンジできてこそ、新しい市場を開拓していく事ができます。
つづく
▽この話の続き▽